01.腰椎椎間関節症 02.腰椎分離・すべり症 03.側弯症 04.腰椎椎間板ヘルニア 05.腰部脊柱管狭窄症 06.腰椎椎体圧迫骨折 07.腰痛症(筋性要素) 01.腰椎椎間関節症
1911年、Goldwaithが初めて椎間関節性腰痛の存在を発表 ぎっくり腰の多くが椎間関節に起因するといわれている ●症状 関節面の軟骨変性や肥大などで腰・殿部痛を生じる 神経根や馬尾を刺激すると、遠位への神経痛を伴う 椎間関節の変性や炎症は、神経根性疼痛の発生にも関与 初動時や体幹回旋運動で増強する痛み 疼痛性側弯(障害関節とは逆へ向かう逃避性の側弯) 圧痛(L4-L5椎間関節障害では、L4およびL5棘突起の圧痛、および棘突起間から1横指外側に位置する関節部の圧痛が確認される) 前後屈時の痛み(特に後屈) 一側もしくは両側性の殿部・下肢側痛(通常下肢放散痛は膝上で終わる)
●原因 椎間板狭小による関節面の不安定性(ヘルニアは下位腰椎に頻発。故に椎間関節症も下位腰椎に多い) 仙骨角増大による、関節面の負荷 変形性関節症性変化によるもの 長時間の不良姿勢 腰椎過屈曲による関節面離開に回旋が加わると関節包が損傷される(この場合、関節面よりはむしろ関節包が損傷されるといわれる) 腰椎過伸展による関節面閉鎖に回旋が加わると関節面が衝突し損傷される ●X線所見 関節裂隙の狭小化・肥厚・硬化像、下関節突起の突き上げ、骨棘形成、関節面の左右非対称 ●治療 治療は保存療法が優先されるが、難治性の症例では手術の適応となる。 どのような治療を行うにしても病理的炎症症上体が消失するのには1週間以上が必要であることを、理解すること
●運動療法 ROM訓練 腰椎の可動域改善、椎間関節の拘縮防止を目的として マッケンジー法による腰痛治療は、初診時に腰痛のある方向へ運動すると効果が高いと言われているが、逆方向に運動を行い、80%以上の症例で腰痛の消失・軽減をみたという報告もある いずれにせよ無理のない範囲で行う 他動的腰椎屈曲運動 背臥位の被検者の両股・膝関節をセラピストが曲げて腰椎を屈曲させる。腰椎の過前弯が生じ椎間関節面に圧縮ストレスが加わっていると考えられる場合に、腰椎を屈曲させて関節面を離開させる。屈曲損傷による腰椎椎間関節症の場合は当然禁忌となる 下位腰椎のみを選択的に屈曲させるときは、腰部を床に接地させたまま骨盤のみを後捻させていく。骨盤の後捻がみられず上位腰椎が屈曲をしてしまうときは、一側の手を仙骨部に挿入して骨盤を末梢牽引しながら少しずつ屈曲を行っていく 上位腰椎のみを選択的に屈曲させるときは、下位腰椎の下にタオルを挿入して上位腰椎が屈曲した状態から、他動的に屈曲を行っていく 腹筋強化 筋力強化により腰椎の安定性を高める 腰椎屈曲・伸展位からの回旋で椎間関節組織を損傷するといわれているが、ことに腹筋・腰背筋の筋力が弱いと損傷を受けやすいため、筋力強化は重要となる 椎間板狭小による関節面の不安定性が原因と考えられる場合にも、腹腔の内圧を高めることで腰椎にかかる上方からの軸圧を軽減させられる 姿勢改善 不良姿勢による疼痛発現であれば、姿勢改善の指導・訓練を行う マッサージ 強度の痛みではヘルニア同様に疼痛性側弯を生じ筋緊張が高進していることがあるため、緊張した筋肉をマッサージにて緩めていく 長期間の腰椎過前弯により腰椎後面に位置する軟部組織に短縮がみられる場合には、伸張を加えながらのマッサージを行う 徒手牽引 左側へ逃避する疼痛側弯がみられる場合の障害関節は右である。徒手牽引を行う際は、右側を上にした側臥位となってもらい、セラピストは骨盤と胸郭に手をおいて椎間関節離開するように対抗牽引を行う。 対抗牽引と同時に、患者自身にも骨盤を下方へ下げてもらうと、より牽引をされている感じが得られるようである。(関節包の断裂が疑われるときには行わない) ストレッチ 下位腰椎(特にL5-S1)では局所的な側屈がみられることがある。側屈により椎間関節に不適合を生じ痛みにつながっているようなときには、原因と思われる筋肉をストレッチする。 腰方形筋、腸腰筋、下位腰椎部の最長筋、多裂筋などが該当筋となる。腰方形筋・腸腰筋は関節を含めたダイレクトなストレッチで伸張するが、最長筋、多裂筋は徒手的に筋線維を伸張する。
関節モビライゼーション モビライゼーションとは、関節に対して関節可動域の解剖学的限界を超えない範囲で細かな運動を繰り返し、関節の最大可動域や無痛運動を回復させる手技 回旋制限に対するモビライゼーション 腰椎の回旋運動で疼痛が増悪するケースでは、回旋制限や異常回旋が原因となっていることがある。回旋制限では棘突起の配列は正常であるが、回旋異常では該当腰椎の棘突起が隣接する棘突起の配列から逸脱している(右方向への過剰回旋で棘突起は左偏移) 回旋制限をきたした腰椎では、隣接する椎間関節に過負荷が生じて痛みにつながるため、次の方法で関節可動域を拡大していく 【座位】 患者座位にて、バランスボールを胸の前で抱いてもらう(腰椎屈曲位で関節固定が解除された状態) この基本肢位から腰椎の側屈運動を左右交互に行わせる 腰椎の屈曲角度は浅い状態から、徐々に深くして行く ※屈曲・回旋運動で椎間関節障害を起こした症例では禁忌 椎体の異常回旋により棘突起の左偏移がみられるときは以下の方法を行う 【背臥位】 セラピストは被検者の右側より腰部の下に手を入れて、棘突起に2〜4指をひっかけて正常の配列線に向かって引き寄せる。 【腹臥位】 セラピストは被検者の左側に立ち、一方の手で該当腰椎を固定し、他方の手で右腸骨を持ち上げる。 骨盤を回旋させることで、異常回旋している腰椎の一分節下の腰椎を間接的に回旋させて整復するものである 02.腰椎分離・すべり症
●概要 椎弓に分離が生じ、骨性の連絡性を欠いた状態を”分離症”という 分離に伴い一分節上の脊椎が前方へ転移した状態を”分離・すべり症”という 分離は伴わず、一分節上の脊椎が前方転移したものは”無分離すべり症”という ●原因
すべり症では、分離や変性による引き起こされるものの他に、以下の原因で生じることがある
●触診 罹患部棘突起の圧痛 罹患部高位の棘突起の凹変化 ●X線 分離部は「犬の首輪像」を呈する 側面像では椎体後縁アライメントに階段状変形みられる ●好発部位・年齢 L4-L5に好発する 無分離すべり症は40歳以上の女性に多い、比率は男:女=1:3、L4/L5椎間に好発 ●症状 すべり症特有の症状はなく、多くは一般的な腰痛を愁訴とする(姿勢性腰痛、歩行時痛など) 無症状も5%程度存在する 激しい痛みというより、だるい、重苦しいとうい症状が多い 脊柱感狭窄を伴っているものでは、神経根、馬尾症状もある 小児でハムストリングの筋緊張が生じると、股・膝関節屈曲位の”出っ尻”を呈す すべり症にみられる腰椎の運動時痛は、椎体の移動を伴っての痛みであることが多く、神経症状等が再現されることもあるので注意深く観察する
03.側弯症
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1)特発性側弯症 |
側弯症の70〜80%を占める 脊柱変形以外に明らかな異常がなく、病因は不明 乳児特発性側弯症(3歳以下)⇒ 男児に多く、胸椎左凸の弯曲が多い 学童期特発性側弯症(3〜10歳)⇒ 女子にやや多く、胸椎右凸の弯曲がやや多い。 思春期側弯症(10歳以上)⇒ 90%が女子。特発性側弯症の大部分をしめる(70〜80%)。胸椎右凸の弯曲。 |
2)神経・筋原性側弯症 |
long C curveと呼ばれる脊柱全体にわたる長い弯曲を呈することが多い。知覚障害を伴う場合は、装具療法の際に皮膚の圧迫壊死に注意 一般的に装具治療で弯曲の進行を止めることは困難で、手術適応となる。 神経原性側弯症 中枢性:CP、脊髄小脳変性症、脊髄空洞症、脊髄腫瘍、SCI 末梢性:脊髄性小児麻痺、脊髄性筋萎縮症、二分脊椎 筋原性側弯症 多発性関節拘縮症、PMD、低緊張症候群 |
3)先天性側弯症 |
発生異常に起因する脊椎の先天異常が原因の側弯症。弯曲の角度矯正よりも、脊椎のバランス改善を目的に装具を処方することがある。急速に進行する例では装具治療は無効。 |
4)神経線維腫症による側弯症 |
皮膚のカフェオレ様色素斑と神経線維腫が全身に認められる遺伝疾患で、30%の例に側弯症、後側弯症を伴う。 |
5)結合織疾患による側弯症 |
マルファン(Marfan)症候群、エーラース・ダンロス (Ehlers-Danlos) 症候群、先天性拘縮性くも指症などに伴う側弯症。長身長、細く長い指(くも指)、水晶体亜脱臼、動脈瘤などの心血管系疾患、全身関節弛緩、手指の拘縮などに注意する。 |
●視診によるチェックポイント
1. 両肩の高さ
2. 両肩甲骨の高さ、位置
3. 腰のウエストライン
4. 前屈したときの肋骨および腰の高さ
●X線
側彎度:Cobb法 |
カーブの上下端において水平面からもっとも傾いている終椎を求め、頭側終椎と尾側終椎の下縁に引いた平行線のなす角度 手術の適応はCobb法で50°以上 装具の適応は20°〜50° |
回旋度:Nash&Moe法 |
正面像で彎曲凸側の椎弓根像の位置によってgrade0(正常)からⅣ(椎体正中を越え反対側に出る)に分ける |
側彎進行予測:Mehta法 |
乳幼児側彎において左右の椎体・肋骨角が20°以上違えば進行度が高い |
骨成熟度:Risser法 |
骨盤正面像において腸骨骨端核の発現、癒合状態によって0型(骨端核未発現)からⅣ型(骨端核内側端が仙腸関節に達する)、Ⅴ型(骨端核が腸骨体部に癒合)に分けられる |
側弯の装具療法では”Milwaukee brace””Boston brace””Under arm brace”などがある
Milwaukee brace |
[適応] 特発性側弯症でCobb45°および骨成長期の症例 胸椎・胸腰椎の側弯 |
Boston brace |
[適応] 頂椎(側弯における凸部の頂上部)がTh10以下で20°程度の側弯変形 胸腰椎・腰椎の側弯 |
Under arm brace |
[適応] 頂椎がTh8以下 |
側弯症の運動療法は、脊柱の可動性増進、筋の再教育、正しい姿勢の獲得、側弯変形の矯正などを目的として行われる。運動療法の方法は 1)装具装着して行なう運動 2)装具を外して行う運動 の2つに分けて記載する。
1)装具装着して行なう運動
方法 |
目的 |
背臥位で胸式呼吸練習 |
肋骨の横径拡大・可動域改善 |
背臥位で骨盤後方傾斜運動 |
腰椎の前弯を減少させる |
背臥位、座位からの起き上がり |
腹筋を働かせて腰椎の前弯を減少させる |
腕立て伏せ |
体幹の筋肉を左右対称に付ける |
腹臥位で脊柱伸展運動 |
脊柱の可動域改善 |
立位で最大吸気を行い、息を保ったまま体幹前屈 |
脊柱回旋の矯正 |
2)装具を着けずに行なう運動
方法 |
目的 |
背臥位で骨盤後傾運動 |
腰椎の前弯を減少させる |
膝立て背臥位からの起き上がり |
腹筋を働かせて腰椎の前弯を減少させる |
腹臥位で額を床につけ両上肢を前上方に挙上 |
左右対称に脊柱起立筋を強化 上体を反り返さないように注意 |
キャット・キャメル (四つ這い位で脊柱を丸めたり、反らしたりする) |
脊柱の可動域改善 脊柱の屈曲困難が多く、その際に弯曲部分の扁平がみられる |
鉄棒にぶら下がる |
腰背部筋の伸張 自重を使った脊柱変形の矯正 |
Klappの匍匐運動 (床上で円弧を描くように四つ這い歩行を行うが、Cカーブでは一側の上肢と反対側の下肢を同時に前に出し、Sカーブでは同側の上下肢を同時に前に出す) |
脊柱変形の矯正 |
正座位で上半身を前に倒し、両手を前方に置き、手を横に這わせながら体幹を側屈する。 |
脊柱変形の矯正 二重側弯の場合は行わない |
日常生活の注意事項として座位・立位で姿勢を正すように指導する。具体的には、座位・立位で両肩の高さを同じにするように注意したり、立位で最も身長が高くなるような姿勢をとらせることを指導する。スポーツは水泳が良い。片側のみを使用するような運動は避ける。
●概要
椎間板の変性により線維を破って脱出した髄核線維が、神経根あるいは馬尾神経を圧迫し、神経根に炎症が発生したものを椎間板ヘルニアという
神経根は機械的刺激と炎症産物による化学的侵害刺激を受け、疼痛を引き起こす
●原因
椎間板は20歳を過ぎると、髄核内に多量に含まれるプロテオグリカンの減少が始まり、クッション作用が減じる。この髄核の変性と共に、その周囲を取り巻く線維輪に大小様々な亀裂が入ると、髄核組織が線維輪の亀裂を通って脱出する
線維輪の亀裂は変性によるものの他に、腰椎の屈曲や回旋運動、重量物挙上などで生じることがある
●好発年齢と高位
20〜30歳代、又は50〜60歳代の活動性の高い男性(二峰性)
L4/5、L5/S1の椎間板に好発 (L3/4以上はまれ)
2椎間以上に発生する多発性ヘルニアもある
●脱出の程度
突出 |
髄核が後方線維輪を完全にやぶっていないもの |
脱出 |
線維輪または後縦靭帯をやぶって脊柱管内に出たもの |
その他 |
遊離脱出ヘルニア(脱出した髄核組織が脊柱管内で移動してしまう) 硬膜内脱出ヘルニア(硬膜を突き破って硬膜内に脱出してしまう) |
●視診
逃避性跛行
疼痛性側弯
脊柱不撓性(腰部が板状になり、脊柱に可動性のない状態)
●徒手検査
Kemp徴候 |
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立位で回旋と伸展を同時に行なわせる 運動方向と同側の殿部・下肢に疼痛が出現すれば陽性 ※Kemp徴候による下肢痛は、ヘルニアによるものより椎間関節など後方要素によるものとの意見もある |
ラセーグ徴候(SLRテスト) |
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背臥位、膝伸展位で股関節を屈曲させて坐骨神経(L5-S3)を伸張する 下肢疼痛により挙上困難となるものを陽性 下位腰椎ヘルニアの検査 |
逆ラセーグ徴候 |
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腹臥位にて膝を屈曲させ、大腿神経(L2-L4)を伸張する 大腿前面に疼痛が誘発されるものを陽性 上位腰椎ヘルニアの検査 |
ヴァレー(Valleix)圧痛点 |
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坐骨神経(L5-L3)の走行に一致した、大腿・下腿後面中央部での圧痛 L5-L3神経根が刺激状態にあることを示唆する |
●症状
腰痛、疼痛性側彎を伴う腰椎運動制限
デジュリーヌ徴候(咳くしゃみで下肢痛が増悪)
坐骨神経痛(神経根の刺激症状)
下肢運動・知覚麻痺(罹患神経根に一致した機能不全)
膀胱・直腸障害(中心性巨大ヘルニアで馬尾の強い圧迫、L1‐2間ヘルニア円錐の圧迫)
●椎間板ヘルニアの高位と神経症状
ヘルニアの高位 |
圧迫神経 |
感覚 |
筋力 |
深部反射 |
L3/4 |
L4 |
大腿前面↓ 下腿内側↓ |
内反↓ |
膝蓋腱反射↓ |
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L4/5 |
L5 |
足背↓ 下腿前外側↓ |
足関節・足趾背屈↓ |
正常 |
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L5/S1 |
S1 |
下腿外側↓ 足部外側↓ |
足関節底屈↓ 足外反力↓ |
アキレス腱反射↓ |
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●保存療法
膀胱直腸障害や強度な麻痺がなければ、諸検査で大きなヘルニアがみられても、初期には安静や薬物療法で様子を見る、通常痛みは2〜3週間で落ち着いてくるので、落ち着いてきたら理学療法などを加えていく。
種類 |
目的 |
安静臥位 |
急性期には通常、仕事などを休みセミファーラー位の安静臥位で寝ていることが理想。 セミファーラー位では腸腰筋が弛緩し、腰椎への前方牽引力が解除されるため痛みが軽減する事が多い。 セミファーラー位が困難であれば側臥位で股関節を曲げて寝る |
コルセット |
コルセットは腰椎の運動制限の他に、腹圧上昇による腰部支持強化、椎間板への軸圧軽減が期待できる 慢性期に移行するまでは極力コルセットで腰部を保護するのが望ましい コルセットは骨盤から腰椎までを包み込めるものがよい |
温熱 |
急性期が過ぎて痛みの軽減してきたころから開始 腰背部の筋緊張軽減 阻血した神経への血液循環改善 疼痛刺激の求心刺激を抑制。通常短時間高温より長時間緩和温度のようが鎮痛作用があるといわれる 遠心性抑制による疼痛の寛解 神経伝導速度を高める(温度上昇でランビエ絞輪のナトリウムチャネルの開口時間が延長する) 心理的な静穏作用 運動療法の前処置として利用 【禁忌】 体内に金属片が入っている場合は極超短波などの、深部温熱療法は禁忌となる |
【ホットパック】 皮膚表面が温める |
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【超短波】 皮下組織や筋肉表層部を温める 神経伝導ブロック作用 |
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【極超短波・マイクロ】 筋肉内部まで温める |
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【キセノン光】 腰部交感神経節近傍へのキセノン光照射が、交感神経系の興奮に伴って生じる痛みの軽減、筋緊張緩和による運動機能改善に寄与する可能性がある |
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電気治療 |
神経症状がみられるときに、神経および筋肉の廃用性萎縮を防止する目的で行う 電気治療では、パルス幅、刺激強度、パルス周波数の3つを組み合わせる パルス幅、刺激強度の組み合わせ方は、強さ─時間曲線(S-D曲線)を参考にすると分かりやすい 感覚神経を狙う場合、パルス幅100μs以下では、感覚閾値(Aα,Aβ神経線維)は、運動閾値や疼痛閾値(Aδ,C)に比べて閾値が低いため、選択的に刺激することが出来る。 パルス周波数は一般に2〜250Hzで選択されるが、慢性疾患では10Hz以下。亜急性疾患では100Hz以上がよいと言われている。周波数が低いと鎮痛の即効性は弱いが効果は持続する。周波数が高いと鎮痛効果は高いが効果が短い。 経皮的電気神経刺による除痛機序はゲートコントロール理論により説明されている 【低周波の禁忌】 低周波は以下の点を禁忌として理解しておく 妊婦 感覚脱出部位 心臓のペースメーカーを使用している |
牽引 |
狭くなった椎間板を広げる ストレッチ効果による筋緊張除去 座位に比べてセミファーラー位では椎間板内圧が86%減少すると言われる、また30kgの牽引力で椎間板内圧が25%減少するという。 ※セミファーラー位で大腿方向へ牽引すると腰椎前弯が軽減するため、椎間板ヘルニアの場合では、症状悪化を招くことがある。痛みのある場合にはベッドと水平方向に牽引を行う |
運動療法 |
腹圧を高める訓練を行う、腹圧を高めることで椎間板への軸圧が軽減される |
マッサージ |
疼痛性側弯のみられる場合は、数日の安静後に痛みが軽減してから筋肉のマッサージ・ストレッチで筋緊張を除去する |
薬物療法 |
鎮痛消炎剤内服、硬膜外注射 |
●手術療法
後方経路によるヘルニア切除(Love法、内視鏡下法)
後方経路による椎間固定(PLIF法)
前方経路による椎間板切除
椎間固定(L3-4、L4-5に対して後腹膜経路、L5〜S1に対して腹膜腔経路)
●概要
腰椎部脊柱管の横断面積がせまくなり馬尾や神経根が圧迫あるいは絞やくされた症状をきたす疾患の総称
独立疾患として取扱われている軟骨形成不全症、変性性脊椎すべり症、脊権分離すべり症なども狭窄症の症状を呈するときはこの疾患群の中に抱括される
●原因
変形性脊椎症(重労働作業に長く従事していた人では、特に退行性変性が生じやすい)
脊椎すべり症
椎間板ヘルニア
腰椎の術後
後縦靭帯・黄色靭帯の肥厚(頸椎に多い)
脊柱管狭窄症の主要な原因としては上記のものが挙げられるが、脊柱管狭窄症国際分類を参考にするとより理解できる
腰部脊柱管狭窄症の国際分類 |
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①先天的狭窄症 |
(a) 特発性狭窄症 |
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(b) 軟骨形成不全症性狭窄症 |
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②後天的狭窄症 |
(a) 変性性狭窄症 |
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(1) 中心型 (2) 外側型 (3) 変性すべり症型 |
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(b) 混合型(合併型)狭窄症 |
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(c) 分離すべり症型狭窄症 |
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(d) 術後型狭窄症 |
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(1) 椎弓切除術後型 (2) 脊椎固定術後型(前方および後方) (3) 化学的髄核融解術後型 |
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(e) 外傷後型狭窄症 |
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(f) その他の狭窄症 |
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(1) ページェット病型 (2) フルオローシス型 |
●好発年齢と高位
先天性狭窄症 |
発育性(若い人にも見られるが稀) 椎弓部が肥厚して脊柱管の後方が狭窄 |
後天性狭窄症 |
退行性(老人に多い) 椎間関節の変性による骨棘形成、軟部組織の肥厚 50歳以上の男性に多い、男女比は4:1 |
●症状
自覚症状による腰痛
下肢しびれ、冷感
直腸膀胱障害
脊髄症状として痙性対麻痺
Babinski徴候などの錐体路症状
感覚障害は下腿など圧迫部よりかなり下方に現われることが多いが、圧迫が強くなると感覚障害が上行し、体幹にレベルをもった分布を示す
深部感覚が障害されRomberg徴候が陽性を示すこともある(この場合、夜間時歩行で転倒傾向を生じるため注意)
下肢痛(片側ないし両側、歩行により増強する神経原性間歇跛行)
●間歇跛行
間歇跛行は神経原性と血管性の2つがある
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神経原性 |
血管性 |
原因疾患 |
腰部脊柱管狭窄症 |
閉塞性動脈硬化症・バージャー病 |
下肢症状の誘発因子 |
歩行および腰椎後屈位 |
歩行・腰椎の肢位には無関係 |
下肢症状の軽減因子 |
歩行停止と腰椎前屈位が必須 |
歩行停止のみ |
神経学的脱落所見 |
あり |
なし |
足背動脈の拍動 |
触知可能 |
減弱・触知不可 |
●狭窄部位による3つの分類(神経根型、馬尾型、混合型)
脊柱管狭窄症では狭窄されている部位によって、神経根型、馬尾型、混合型の3群に大別される
神経根型 |
疼痛を主訴としており、下肢、殿部の疼痛・しびれは両側性もあるが通常片側性 |
馬尾型 |
殿部周辺の血流障害のため下肢症状が出やすい 間欠性跛行が特徴 両側性の殿部、下肢、会陰部のしびれなど異常感覚、下肢脱力感、排尿障害などの膀胱・直腸障害、男性では勃起が惹起される症例もある |
混合型 |
両者の合併症状を呈する |
●検査
後屈時の下肢痛増強 |
一定時間立位あるいは背屈位を保持しないと症状の再現性は得られない場合が多い |
アキレス腱反射 |
減弱ないし消失 両側アキレス腱反射の低下を認めたら馬尾障害を考えて、自覚症状−他覚症状に対応するものがないか確認 |
ラセーグテスト |
狭窄症ではあまり著名ではない 現れる場合は両側性が多い |
歩行負荷試験 |
間欠跛行は腰部脊柱管狭窄症の特徴的症状であるため、自覚症状・他覚所見の誘発に歩行負荷試験は重要 歩行を行ってもらい、症状出現部位で責任高位を測定する |
●画像診断
種類 |
画像所見 |
X線検査 |
【先天性脊柱管狭窄症】 前後像において椎弓根間距離の明らかな短縮と下関節突起の燕尾服様の形態 側面像で椎弓根の長さの短縮(椎間孔横径の短縮) 【変性脊柱管狭窄症】 前後像で変性側弯や椎弓間隙狭小化 側面で脊柱管前後径の短縮や椎体すべりの有無、椎間関節の塊状変形肥大 前後屈で不安定性の有無など |
CT、CTM |
単純CTでは脊柱管の狭窄状態や椎間板ヘルニアの有無、靱帯肥厚について、またCTMでは硬膜管像の狭窄状況や神経根の圧迫状況がわかる |
MRI |
T1強調画像では脊椎、椎間板病変が明瞭であり、T2強調画像では髄液が高信号となるため椎間板や骨棘による硬膜管の圧迫像が明瞭となる |
造影検査 |
脊髄造影myelographyは本疾患の基本的な検査法であり、最低限これでのみ十分把握できる |
●治療を行う前の患者評価
項目 |
主な内容・注意点 |
身体・形態測定 |
大腿、下腿周径(筋萎縮の程度) ※両側を測定し比較する |
疼痛の評価 |
痛みの部位 痛みの質(しびれ、刺されるような痛み、チクチクする痛み、など具体的に) どのような肢位、動作時に痛みが出現するか。 出現頻度 持続時間 痛みの程度(VAS、pain drawing) |
深部腱反射 |
両下肢をおこなう ※両側を測定し比較する |
感覚検査 |
術創周辺,両下肢の感覚障害の有無 |
ROM−T |
体幹、両下肢 可動域制限の原因鑑別(end feelより) ※両下肢を測定し比較する |
MMT |
体幹、両下肢 ※両下肢を測定し比較する |
ADL−T |
Barthel Index・FIM 動作に伴う痛みのチェック |
姿勢・動作分析 |
姿勢アライメント(腰椎の生理的前弯の減少、逃避性側弯の有無) 基本動作能力・身の回り動作の分析・自立度の評価 動作に伴う疼痛にも注意 |
歩行分析 |
歩行スピード・歩行距離・安定性・間欠性跛行の有無 歩容の評価(前屈姿勢での歩行、跛行、逃避性歩行の有無) 歩行負荷試験の実施 補助具の使用(W/C・W−cane・T−cane) |
バイタルチェック |
起立性低血圧の有無の確認 その他PT施工上のリスク管理に |
心理・精神面 |
高齢者の場合痴呆の有無 治療に対しての恐怖心・不安感などの把握 |
その他 |
個々症例に対して必要と思われる検査 |
●ゴール設定
治療を行うに当たっては最終目標に向かったゴール設定がなされるとよい
ゴール設定は短期的なもの(1,2週間先)と、長期的なもの(1,2ヶ月先)を用意して進めるのがよい
ゴール設定を決定する際の因子であるが、以下の条件を念頭に入れておくと、大きな設定ミスを防ぐことができる
① 症状出現前のADL状況
② 合併症の有無⇒合併症の治療によるゴール期間の延長
③ 痴呆の有無⇒ゴール設定困難
④ 年齢⇒加齢による機能レベルの低下
●リスク管理
転倒:転倒履歴、転倒原因の確認
骨粗鬆症:転倒による易骨折性
循環障害:術後の臥床による起立性低血圧
●治療
発症まもない腰部脊柱管狭窄症に対してはまず保存療法が試みられる。保存療法の中心となるものは腰椎後弯状姿勢での臥床と腰椎のexerciseである。腰椎後弯状姿勢での臥床は狭い脊柱管を広くする意味がある。ときに軽い骨盤牽引を加えることがあるが、椎間関節の変化が高度で、それが臨床症状と関係があるようなときには強い骨盤牽引はかえって症状を増悪することがある。入院治療を行ったものに対しては、退院時、腰椎を後彎状にするコルセットを数ヶ月着用させる。
保存療法に抵抗し、症状の強いもの、あるいは下肢に知覚・運動障害のあるものが手術の適応となる。手術としては椎弓切除、側溝ないし神経根管の開削と神経根の剥離、脊柱管前壁の突出物の切除などが行われるが、狭窄の種類により惟弓切除の範囲やこれらの侵襲の組合せは異なる。
脊柱管狭窄症の保存療法 |
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安静臥位 |
セミファーラー位にて腸腰筋を弛緩させ、腰椎前方を除去することが望ましい 腰椎平坦あるいは後弯で脊柱管の面積が拡大する |
装具療法 |
軟性コルセットよりも腰椎の前弯を矯正する意味も含めたWilliams型体幹装具の方が効果的 |
コルセット |
コルセットは腰椎の運動制限の他に、腹圧上昇による腰部支持強化、椎間板への軸圧軽減が期待できる |
温熱 |
⇒腰椎椎間板ヘルニアでの温熱療法を参照 |
電気治療 |
⇒腰椎椎間板ヘルニアでの電気療法を参照 |
牽引 |
ストレッチ効果による筋緊除去 |
運動療法 |
【目的】 腹圧の強化で腰椎の安定性を高める 姿勢と骨盤前傾の矯正運動 腰椎屈曲運動で椎間孔・椎間関節の開大 腰椎前弯を増強させる緊張した股屈筋と脊柱筋の伸張 腰椎前弯を減少させるための腹筋・殿筋強化 【内容】 腰椎前弯の矯正を目的とした体幹筋筋力強化(ウイリアムの腰痛体操) ① 腹筋強化 ② 大殿筋・膝屈筋群の強化 ③ 脊柱筋の伸張 ④ 膝屈筋群の伸 ⑤ 股屈筋群の伸張 ⑥ 腰仙部の屈曲および大殿筋・大腿四頭筋の筋力強化 |
ROM訓練 |
ROM改善、拘縮防止 |
筋力増強訓練 |
腹背筋筋力増強、 下肢の筋力低下防止 |
マッサージ |
筋肉へのマッサージ・ストレッチで筋緊張を除去 |
間欠性跛行に対して |
馬尾性間欠性跛行の保存療法に対し、腸腰筋・大腿筋膜張筋の拘縮除去で著効を得られることがある。拘縮除去による腰椎後弯移動、硬膜外静脈叢の循環改善が症状改善に関与すると考えられている ただ馬尾性間欠跛行で間欠跛行の距離が300 m以下の症例では手術を勧めるべきとされている |
食事 |
ビタミンB1などの摂取で神経組織の修復 |
薬物療法 |
非ステロイド性抗炎症剤、血管拡張剤の内服 硬膜外ブロック(上記治療で症状改善が得られないケースや、疼痛の激し症例に対して行う) |
脊柱管狭窄症の手術療法 |
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脊柱管拡大開窓術 |
神経根が複数椎間での外側部で圧迫を受けている場合 責任椎間の診断と狭窄因子の同定が可能 |
広範椎弓切除術 |
経根の圧迫も合併する混合型の場合 |
脊椎固定術 |
術後のinstabilityの発生が予想される場合に併用される 最近pedicle screw and platingがよく用いられる |
●術後リハビリ計画
脊柱管拡大開窓術 |
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パス |
訓練内容 |
術後体位 |
ベッド上安静 |
数日〜1週間 |
軟性コルセットをつけて起坐、離床 下肢ROM訓練 四頭筋セッティングなど等尺性収縮を中心に筋力増強訓練を行う |
2週目〜1ヵ月 |
両下肢筋力の筋力トレーニング 歩行器による歩行訓練 |
1ヵ月 |
腹背筋訓練開始 腰痛体操 |
2ヵ月 |
軟性コルセット除去 |
広範囲椎弓切除術 |
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パス |
訓練内容 |
術後体位 |
ベッド上安静 |
数日〜一週間 |
軟性コルセットをつけて起坐、離床 下肢ROM訓練 四頭筋セッティングなど等尺性収縮を中心に筋力増強訓練を行う |
2週目〜1ヵ月 |
両下肢筋力の筋力トレーニング 歩行器による歩行訓練 |
1ヵ月 |
腹背筋訓練開始 腰痛体操 |
2ヵ月 |
軟性コルセット除去 |
脊椎固定術(pedicle screw固定術) |
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パス |
訓練内容 |
術後体位 |
ベッド上安静 |
1〜2週間 |
硬性または軟性コルセットを着けて離床 骨癒合を待ってコルセットを除去する |
※すべての訓練において痛みの生じない範囲で行うこと。 ※脊椎固定術は腰部脊柱狭窄症では単独では行われないためパスはもう一つの術式に沿って行う |
●概要
骨塩量の減少によって骨微細構造の破錠をきたし骨強度が低下し骨折に対するリスクが高まった全身性疾患
●原因
腰椎椎体圧迫骨折には、2つの発症機転があり 1.外傷 あるいは 2.海面骨量減少 により発症する
1.外傷による楔状椎 |
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骨粗鬆症が基盤にあって、椅子から立ち上がろうとして転倒、尻もちをついた場合のように、両側股関節と体幹が同時に過屈曲となり、外力が椎体前部に加わる X線側画像では椎体前部に圧潰を生じ、楔状椎を示す。背部は外見上骨折部に相当して凸状の亀背(=円背)を示し、当該椎付近に叩打による痛みを訴える |
2.海綿骨量の減少による魚椎 |
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海綿骨量の減少が基盤にあり、明らかな外傷がないにもかかわらず、椎体上・下面の骨性終板の中央部が骨折を起こし、椎間板の線維軟骨が椎体内に侵入し、シュモール結節を形成するものである(魚椎) この骨折は多椎体に引き起こされ、部位のはっきりしない慢性の疼痛や重圧感をもたらす。また、悪性腫瘍の椎骨転移によりX線像で明らかな病的椎体骨折の異常を示していても、患者自身はほとんど自覚しない例がある。しかし、病状が進行するに従い、腰背部痛を訴え、ときには下肢の運動・知覚麻痺を合併し、体幹の支持性と下肢の運動性を失うことがある |
●骨量減少の原因
骨の構成成分であるカルシウムは、食事によって摂取され、腸で吸収されて血液中に入り、骨芽細胞に
より骨形成される。その一方で、古くなった骨の成分を破骨細胞により骨吸収、骨破壊する。この骨形
成と骨吸収のバランスがぐずれた時に起こる
●骨量の減少因子
ホルモン量の変化 |
①エストロゲン エストロゲンは骨形成を進め、骨吸収を抑えるが、閉経前後からエストロゲン分泌が激減するため骨量は減少する ②カルシトニン カルシトニンは骨吸収を抑える。しかし、高齢者ではカルシトニ ンの分泌が低下するため骨吸収が進む ③副甲状腺ホルモン 副甲状腺ホルモンは血液中のカルシウムが不足すると分泌され、骨吸収 を促進する。しかし、高齢者ではカルシウムの摂取不足により血液中のカルシウム濃度が低下するため、副甲状腺ホルモンが分泌されて骨吸収が促進される |
女性(閉経後) |
女性の最大骨量は男性よりも低く、閉経後の数年間は急激に骨量が減少する |
遺伝 |
家族に骨粗鬆症にかかった人がいると、なる可能性が高いといわれている |
カルシウム不足 |
少なくとも600mg/日は必要。成長期や閉経後などは1000〜1500mg/日が必要 |
ビタミンD不足 |
腸におけるカルシウムの吸収にはビタミンDの作用が必要 |
日光浴不足 |
ビタミンDは皮膚の中で日光の紫外線に当たって始めてその役割を果たすため、日光浴が必要 |
運動不足 |
筋や骨の強度を維持するために運動が必要 |
喫煙、飲酒、カフェイン |
喫煙は胃腸の働きを低下させカルシウムの吸収を低下させる。過量のカフェイン は尿へのカルシウムの排泄を増加させる。過量のアルコールはカルシウムの吸収 を減らして、排泄を増やす |
食塩、糖分 |
過量な食塩や糖分はカルシウムの尿への排泄を増加させる |
ストレス |
過度のストレスは腸におけるカルシウムの吸収を妨げる |
●症状
椎体圧迫骨折による臨床症状は、急性・亜急性・慢性の腰背部痛と脊柱変形である。急性の疼痛は急激な強い外力による椎体の圧迫骨折で、骨折部に一致した圧痛や叩打痛がある。また鋭い痛みのため1〜2週間、寝返り、起き上がりの体動や歩行も困難となる。軽微な骨折では痛みは自制内の軽度である。痛みは急性から亜急性へ移行するが姿勢や起居動作によって増悪することがある。
慢性の腰背部痛や殿部、下肢の痛みは、圧迫骨折は改善したが脊柱の変形からくる異常姿勢を維持するため、筋・筋膜の過緊張とか支持靭帯による痛みで、過労や気候によっても増悪することがある。圧迫骨折後、遅発性麻痺の症例は少ないが、圧迫骨折による下肢の麻痺は椎体後壁が後方へ倒れこみ、脊髄や馬尾神経を圧迫する破裂骨折とされている。
麻痺の発生は緩徐に発生するのが特徴で軽い外傷により発生し、徐々に圧潰が進行し、骨片が神経組織を圧迫するためと考えられている。破裂骨折の治療は脊椎の安定性と神経症状によって外科的療法が決められる。
椎体圧迫骨折後の異常姿勢や円背による低身長、知覚異常、筋萎縮、筋力低下、運動制限などが合併
することがある。
通常臨床症状 |
腰背部痛 脊柱変形 姿勢などの動作変化時痛 歩行時痛 遅発性麻痺 運動制限(圧潰した椎体の下縁と上縁のなす角度分は、当然運動制限として現れる) |
合併症状 |
円背による低身長 知覚異常 筋萎縮 筋力低下 運動制限 |
●圧迫骨折による腰背部痛の原因
軟部組織によるもの |
前縦靭帯、後縦靭帯、椎間板の線維輪、椎間関節軟骨、腹側椎体、関節包には痛みの受容器がある ※圧迫骨折(楔状椎)では、後縦靭帯・椎間板の後方の線維輪・後方の関節包の過伸張・損傷、腹側椎体の損傷による痛みが生じるものと考えられる |
筋によるもの |
軟部組織の痛みにより反射性筋収縮が生じると、局所的な虚血が生じ、発痛物質が生成され、痛みが生じると考えられる |
●保存療法
種類 |
目的 |
整復・固定 |
楔状変形を示す圧迫骨折では、ベーラー法に準じた腹臥位・体幹伸展による整復を行い、同体位でギプスコルセット。もしくは背臥位で背部にタオルを挿入し、反張位整復をした後に、タオルと一緒にギプス固定。 固定は約4〜6週間 6週後よりJewett型反張位体幹装具もしくは軟性コルセットに変更 骨折端を離開しすぎた固定肢位では偽関節を生じる事がある 骨化形成まで概ね2〜3ヶ月 高齢に多いため、脊柱・胸郭の可動性低下、心肺機能、下肢筋力低下などの2次的障害を生じやすい |
運動療法 |
廃用性萎縮を予防するために、下肢筋力訓練 ギプスが除去されるまでは体幹筋は等尺性運動で行う 安静期が過ぎたら装具を装着して坐位から立位、歩行へと進める 装具を装着せずに起こすときなどは、脊柱の捻転と前屈をさせないように注意する |
温熱 |
⇒腰椎椎間板ヘルニアでの温熱療法を参照 |
電気治療 |
⇒腰椎椎間板ヘルニアでの電気療法を参照 |
超音波 |
仮骨形成の促進 |
マッサージ |
疼痛性側弯のみられる場合は、数日の安静後に痛みが軽減してから筋肉のマッサージ・ストレッチで筋緊張を除去する |
薬物療法 |
局所神経ブロック 消炎鎮痛剤 活性ビタミンD₃ カルシトニン投与 |
筋性要素の腰痛には様々な原因が報告されており、代表的なものには以下のものがある
●筋性腰痛の原因
筋内圧上昇(筋内の高圧状態が長く続くと、筋壊死や神経障害の原因となる。筋内圧が上昇すると血流が阻害され、筋細胞の虚血即ち酸素濃度の低下が所持て疼痛が引き起こされる
疼痛の他、腫脹や伸展時痛なども筋内圧上昇時に見られる症状のひとつである)→筋内圧上昇は筋組織の外傷の他、長時間の中腰姿勢や激しいトレーニングなどで生じる。
筋血流低下(内圧上昇や腰動脈狭窄で生じる)
加齢に伴う筋の退行性変性(老化では速筋型のタイプII筋線維の萎縮が顕著に見られ、脂肪沈着や繊維化が見られる)
筋力低下
筋収縮機能の低下
酸素化能などの低下
筋易疲労性(筋が弱化をしていると容易に筋疲労を生じる。また胸郭運動の制限で酸素摂取量が低下すると持久的運動のパファーマンスが低下する)
筋構造の破綻、筋線維の損傷などにより筋内における酸素動態の低下すると、筋活動時の酸素レベルが減少し腰痛になるとの報告もある
脂肪の蓄積による筋量減少や、筋の脂肪変性による筋量減少
(腰痛を有する患者では多裂筋に脂肪変性が認められることが多いようである。脊柱起立筋での脂肪変性は少ないとされる)
加齢に伴う筋量減少(老化に伴う筋委縮はサルコぺニアと呼ばれる。骨格筋の再生を担う筋衛星細胞が、老化に伴い筋再生能力の低下を来たすために生じる
ゆっくりと筋力や筋持久力が低下していく。筋量減少でも腰痛は生じるが、非対称性に筋委縮が進むことでも腰痛が生じる。ただ多裂筋の横断面積は健常者においても5%程度の左右差はあることは理解しておくこと
萎縮には加齢に伴う退行性萎縮と長期臥位による廃用性萎縮があるが、退行性萎縮では速筋線維が著明に萎縮し、廃用性萎縮では脊柱の安定性に関与する遅筋線維が萎縮しやすい
骨格筋内の脂肪沈着は異所性脂肪沈着とよばれ、これらの脂質は毒性を持ち、細胞の機能障害や細胞死を起こすとされる)
●症状
腰椎運動制限
生理的前彎減少
疼痛性側彎
傍脊柱筋の圧痛
●筋内異常の各種検査
検査の種類 |
方法 |
筋内圧検査 |
筋内圧を計る方法に、腰背筋穿刺がある(血圧計や中心静脈圧測定方法を用いた簡便なneedle manometer法)。内圧測定は、測定したい筋区画の筋内に針を刺し、圧トランスデューサに接続する。筋区画内圧が30mmHgを超える症例では筋区画症候群を合併する危険性が高く、筋膜切開を考慮する。 また、エラスタ針をガイドとして筋肉内にカテーテルを挿入したのち、圧トランスデューサーを介して記録計のグラフに記録する。 筋区画内圧が40mmHg以上、拡張期血圧との差が20mmHg以下のときには積極的に筋膜切開をおこなったほうが良いとされている。 |
筋血流量検査 |
近赤外分光器にて筋収縮時の酸素化及び脱酸素化ヘモグロビンの相対変化量を計測 |
筋力検査 |
徒手筋力検査 |
筋量 |
筋量の低下や左右差、脂肪組織への置換は、MRI横断面積での計測ができる |
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●治療
急性腰痛:安静、鎮痛消炎剤内服、理学療法(腰椎牽引、温熱療法)
慢性腰痛:腹筋背筋訓練、日常生活動作の注意、労働条件の改善
※近年ではマイスタチンと呼ばれる分子を阻害することによって、筋萎縮の防止、繊維化の抑制、体脂肪量の減少、脂肪肝抑制効果が得られることが分かってきている
●腹筋背筋訓練
ウィリアムの腰痛体操
腰椎前彎や腰仙角の増大に対して、これを減少させることを目的として腹筋・殿筋の強化と、腰背筋・ハムストリングスのストレッチングを挙げている。
1. 腹筋強化の目的で、背臥位で、股・膝関節を屈曲(腸腰筋を働きにくくする)させ、そこから上半身を起こす。
2. 腹筋・殿筋強化を腰椎前彎を減少させる目的で骨盤を回す感じで腰部を床に押しつけながら、殿部下端を少し浮かせる。このとき、腹筋・大殿筋の収縮を確かめる。
3. 背筋のストレッチングを目的として、両膝をかかえて仙骨が床から離れるように体幹を屈曲する。
4. ハムストリングスと下腿三頭筋のストレッチングを目的として下肢の伸展挙上と足関節背屈を行う。
5. 大殿筋と腸腰筋のストレッチングを目的として一側下肢屈曲、他側下肢伸展前傾位をとる。
6. 背筋のストレッチングを目的に蹲踞位(うずくまった姿勢)で体幹前屈する。
●腰痛に対する生活指導
腰痛に対する生活指導 |
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立位 |
長時間の立位をとる場合は約20cmの足台を置き、一側下肢ずつ5〜10分おきの交互に台の上にのせる。腸腰筋が腰椎を牽引し、腰椎前弯を減少させる |
座位 |
あぐら坐りよりも正座がすすめられる やむを得ずあぐら坐りを行うときには殿部の下に座布団を置くと楽である |
椅子座位 |
膝を股関節より高く保ち、腰椎を生理的前弯に維持 高すぎる椅子に座る場合は足台を置く 座布団やタオルをもち手、背もたれと腰部の間にすきまができないようにする 20〜30分おきに立位をとり、腰部を動かす習慣をつける |
荷物の持ち上げ |
体幹を進展させ、股関節および膝関節を屈曲させて物を抱き、股関節および膝関節を伸展させながら物を持ち上げる 腹筋が弱い人はコルセットの装着が望ましい |
荷物の運搬 |
荷物を持つ場合は上肢のリーチを短くし、体幹に近づけて持つ 重いものをやむを得ず運搬する場合は肩にかけたり、背中にかついだりする |
慢性腰椎患者への日常生活活動の基本は、腰椎の生理的前彎保持である。腰椎の生理的前彎は、骨盤の生理的傾斜と関連している。具体的な注意点は…
背部を常に直立位にする
腹筋を常に収縮させる
膝を屈曲させる
基本的には腰椎の過剰な動きを避け、腰部の安静を保つことが重要となる
●急性期・亜急性期・慢性期の基本方針